☆ 第 10 回JMO夏季セミナーの記録 ☆

第 10 回JMO夏季セミナーは, 20010 年 8 月 22 日(日)〜 28 日(土)の 6 泊 7 日で, ヴィラ千ヶ滝(山梨県清里高原)で開催しました. 参加希望者には事前に, 自分が数学に関して研究したもの, 興味をもったことについてのレポートを送ってもらい, それによって選抜を行いました(2010年度春の合宿参加者は優先的に参加することができました. 選抜方式は年によって変わります). 参加した生徒は男子30名, 女子5名の計35名で, 中学1年生から高校3年生までわたる幅広い層からの参加が見られました. また, チューターとして16名の大学生・大学院生も参加しました. 当セミナーは数学オリンピック財団の主催で運営されています.

概 要

午前中に講義(第 3,4,5 日), 午後・夕食後にゼミを行いました. 5日目の夜には, 親睦を深めるためバーベキューを行いました. また, 1日目の夜には希望者による自由発表があり, 3名の生徒が自分の数学に関する研究成果について発表してくれました.

ゼミではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち1冊の本を読みすすめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発表しました.

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講 師

講義の紹介

小林亮一先生(名古屋大学)「幾何と拡散集中の解析」 --ハミルトンとペレルマンによる幾何化予想解決への道筋--( 8 月 24 日)

概要

2002年から2003年にかけて、前世紀のトポロジーを牽引してきたポアンカレ/幾何化予想が、ハミルトンとペレルマンによって、トポロジーではなく、微分幾何的、解析的方法によって解決しました。この講演では、幾何化予想とはどのような予想であり、どのようにして解かれたかをお話します。

まず幾何とは何かを直観的に理解しやすい2次元の場合に例をとって説明して、それをもとに幾何化のアイディアを導入します。次に簡単な数理モデルを使って、拡散とエントロピーのアイディアを解説します(このへんだけは厳密な数学にしたいと思います)。幾何化予想解決の鍵は、リッチフローとよばれる方程式で空間を変形していくことにあります。この変形によって生じる集中と拡散を解析することによって、3次元空間の壊れかたを理解することができます。この様子を 絵を描きながら説明したいと思います。

大坪紀之先生(千葉大学)「有限体と方程式の解の数」( 8 月 25 日)

概要

有理数、実数、複素数のように加減乗除を持つ数の系を体(たい)といいますが、有限個の数からなる体もあります。そこではどんな方程式も解くことができるのですが、その解の個数を数えてみると非常に不思議なことがわかります。実はその背後には幾何学があり、我々が生きている実数の世界と同様な「形」を見いだすことができるのです。この講義では、有限体の定義から始めてフェルマー方程式などの解の数を計算してみます。そして、ヴェイユ予想を紹介したいと思います。

落合理先生(大阪大学)「数の体系の広がり, 周期積分, そして整数論」 --代数と幾何と解析の交わる世界--( 8 月 26 日)

概要

前半では、有理数体、実数体、複素数体の数の体系をざっと振り返る。代数的数、超越数のような数の体系の拡張の歴史という縦糸に、代数系の理論や集合の理論といった横糸が織りなす風景を散歩する。

後半では、ゼータ関数や周期積分といった整数論の話と数の体系をからめてより整数論的な話を目指したい。 ゼータ関数を中心とした現代の数学には壮大な哲学と特殊値などに関する予想が確立されて進むべき方向を 示唆してくれている。一方で、整数論は、数という非常に強い実在感にささえられつつ、まだまだ既存の枠組みに 当てはまらない混沌とした面白い現象が秘めているようにも思える。

そういった気持ちに沿っていくらか整数論を感じてもらえるような話を試みたい。

最終更新日:2010 年 12 月 29 日
JMO 夏季セミナー運営委員会
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