☆ 第 13 回JMO夏季セミナーの記録 ☆

第 13 回JMO夏季セミナーは, 2013 年 8 月 22 日(木)〜 28 日(水)の 6 泊 7 日で, ヴィラ千ヶ滝(山梨県清里高原)で開催しました. 参加希望者には事前に, 自分が数学に関して研究したもの, 興味をもったことについてのレポートを送ってもらい, それによって選抜を行いました(2013年度春の合宿参加者のうちIMOおよびCGMO候補者は優先的に参加することができました. 選抜方式は年によって変わります). 参加した生徒は男子31名, 女子4名の計35名で, 中学2年生から高校3年生までわたる幅広い層からの参加が見られました. また, チューターとして18名の大学生・大学院生も参加しました. 当セミナーは数学オリンピック財団の主催で運営されています.

概 要

講義およびゼミを行いました. 5日目の夜には, 親睦を深めるためバーベキューを行いました. また, 1日目の夜には希望者による自由発表があり, 3名の生徒が自分の数学に関する研究成果について発表してくれました.

ゼミではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち1冊の本を読みすすめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発表しました.

本の紹介についてはこちら

講 師

講義の紹介

高崎金久先生 (京都大学) 「グラフ理論と線形代数」( 8 月 23 日)

概要

グラフは「点」と「線」からなる(場合によっては「面」を考えることもある)構造です.身近な例としては鉄道路線図があります.グラフとしての鉄道路線図では「点」が駅,「線」が駅の間の鉄道区間を表します.鉄道路線図はグラフの構造が見え見えの例ですが, もう少し隠れたグラフの構造の例としては,国を「点」で表して,国境を接する国同士を「線」で結んでできるグラフがあります.このグラフは平面的,つまり平面の上に線が交差しないように描ける(したがって「面」も決まる)という特徴をもち,有名な「4色問題」の舞台になりました.グラフを扱う数学の分野を「グラフ理論」といいます.グラフ理論の起源は18世紀のオイラーの研究の中にあると言われますが,「グラフ」という言葉を導入して本格的な研究を始めたのは19世紀の数学者ケイリーです.グラフ理論はそれ以来発展して,今日では組合せ論の重要なテーマとなっていますが,ここでは線形代数的方法を用いてグラフを扱う「線形代数的グラフ理論」に焦点を絞り,木(全域木)の数え上げに関わる 古典的な話題を紹介します.

グラフの点のつながり方や点と線の関係は「隣接行列」や「接続行列」と呼ばれる行列で表現することができます.これらはグラフそのものを表現する行列ですが,線形代数的グラフ理論ではこれら以外にも「ラプラシアン行列」,「カットセット行列」,「タイセット行列」などの行列を用いてグラフに内在する性質や構造を調べます.これらの行列は物理学者キルヒホッフが1847年に発表した電気回路の研究に由来するもので,今日でも電気回路の理論で用いられています.

じつは,1847年の時点ではまだグラフという言葉も行列の概念や算法(これを導入したのもケイリーです)もなかったのですが,キルヒホッフはグラフ理論的考察によって電流・電圧に対する連立1次方程式をうまく選び(そこにカットセット行列やタイセット行列が隠れています),その解の構造(クラメルの公式の分子と分母に関係する)もグラフ理論的に記述する,という離れ業をやってのけました.

その後数十年もかけて,グラフ理論や線形代数が次第に整備され,キルヒホッフが行ったことの真の意味も解明されて行きました.その1つの到達点が「行列と木の定理(matrix-tree theorem)」です.これは与えられたグラフの全域木の個数を行列式の形で表す公式であり,さまざまな方面にも応用されています(その中には私が関心を持っている数理物理への応用もあります).この講義ではこの公式を紹介することを目標にします.そのために必要な線形代数の基礎知識も適宜紹介します.時間が許せば応用面についても触れるつもりです.

吉永正彦先生 (北海道大学)「巡回篩現象入門」( 8 月 25 日)

概要

有限組合せ論の数え上げ問題に於いて, 対象が自然に回転対称性を備えている場合がある. この時, 数え上げ問題と, その q-類似の間にある不思議な関係が観察されている(巡回篩現象). いくつかの例でこの現象の紹介をしたい.

阿原一志先生 (明治大学)「連立方程式の一般解とグラフのベッチ数」( 8 月 26 日)

概要

講義の前半では,まず連立一次方程式の一般解の解法について解説する.そののち,頂点と辺からなる「グラフ」と呼ばれる図形を紹介し,そこから連立方程式を経由して「ベッチ数」と呼ばれる数を定義する.この講義の目的は,連立方程式の解の自由度によって定義されるベッチ数が,グラフの「図形としての形状」を反映した数であることを証明することにある.

最終更新日:2014年2月14日
JMO 夏季セミナー運営委員会
リンクは トップページ へどうぞ.