第 7 回JMO夏季セミナーは, 2007 年 8 月 23 日(木)〜 29 日(水)の 6 泊 7 日で, ヴィラ千ヶ滝(山梨県清里高原)で開催しました. 参加希望者には事前に, 自分が数学に関して研究したもの, 興味をもったことについてのレポートを送っ てもらい, それによって選抜を行いました(2007年度JMO本選表彰者は優先的に参 加することができました. 選抜方式は年によって変わります). 参加した生徒は35 名で, 中学1年生から高校3年生までにわたる幅広い層からの参加が見られました. また, チューターとして12名の大学生・大学院生も参加しました. 当セミナーは 数学オリンピック財団の主催で運営されています.
午前中に講義(第 2,4,5 日), 午後・夕食後にゼミを行いました. 3日目の夜に は, 親睦を深めるためバーベキューと花火を行いました. また, 1日目の夜には希望者による自由発表があり, 2名の生徒が自分の数学に関 する研究成果について発表してくれました.
ゼミではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち一冊の本を読みす すめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発 表しました.
本の紹介についてはこちら
近藤 宏樹, 入江 慶, 清水 俊宏, 西本 将樹, 松本 雄也, 川越 美規, 栗林 司, 三谷 明範, 伊藤 佑樹, 今村 麻子, 大橋 祐太, 渡部 正樹
お湯に氷を入れて, 時間がたてば, ぬるま湯という平衡状態に達する ことは誰でも知っていることでしょう.
では, あらためて平衡状態とは何かと問われると答えに窮する人が多い のではないでしょうか.
平衡状態の議論から始めて, 熱力学の基礎となるエルゴード仮説につ いて述べます. というと, まるで物理の勉強のように思われるでしょうが, 数学における力学系理論の分野の一つであるエルゴード理論の話をしま す. 力学系の理論, これも物理のようですが, 幾何, 解析, 確率論に 広がる数学の分野の一つです. もちろん, 物理と無縁ではありません. 空間の中で変換を繰り返すときどのような挙動をするかを研究する分野 です. 変換を時間が進む変換とみなせば, 変換の繰り返しは 時間発展とみなせ, 物理への応用が広がります. 一方で, 純粋に変換と みなせば, 数学への応用も広がります. さらに変換の挙動から 空間の構造を考察することもできます.
今回は, めざす統計力学に比べればずいぶんと矮小な感じがします が, 1次元の力学系を中心に, 記号力学系などの話を交えて, 平衡状態における時間発展の挙動についてまとめてみます.
第1部: インターネットに代表される高度情報化社会において, 「セキュリティ」の基礎をなす暗号技術はとても重要なものに なっています. 1970年代に「公開鍵暗号」の概念が出され, その代表的なものとして「RSA暗号」というものが考案されました. これは純粋に数学的な暗号で, その「強度」すなわち解読の困難性を, 「素因数分解の困難さ」に頼るものです. 「公開鍵暗号」とは 何か, そしてこの RSA 暗号の原理と, そこに使われる数学 (初等整数論) を解説します.
第2部: 「ビュッフォンの針」の実験はご存知でしょうか. 円周率にまつわる雑学, 驚異的な公式, などを講義して, (講義ばかりではだんだん眠くなるでしょうから)この実験を 実際に皆でやってみて, 「こんなことで円周率が求まるなんて」 という驚きを体験しましょう. そしてその理由を考えてみま しょう.
ヒルベルトは, 面積や体積の概念を厳密化する過程で 生じた問題を, 体積が等しい正4面体と立方体は適当に 切り貼りを繰り返すことにより一方を他方に移せるかと 定式化し, 有名な23の問題群の3番目に挙げた. 本講義では, 1年を経ずして得られたこの問題に対する デーンの (期待通りの) 否定的解決を, やや現代的に, また少し話を膨らまして紹介する.
最終更新日:2008 年 1 月 11 日