第 6 回JMO夏季セミナーは, 2006 年 8 月 21 日(月)〜 26 日(土)の 5 泊 6 日で, 白浜荘(滋賀県高島市)で開催しました. 全国から 22 名の高校生・中学生が参加しました. 当セミナーは数学オリンピック財団の主催で運営されています.
午前中に講義(第 2〜5 日), 午後は自由時間で, 夕食後にゼミを行いました.
セミナーではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち一冊の本を読みすすめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発表しました.
入江慶, 清水俊宏, 西本将樹, 松本雄也, 近藤宏樹, 尾高悠志, 栗林司, 三谷明範
ここでは, 超平面配置は実ベクトル空間内の 超平面の有限集合を指すものとします. 2次元空間内であれば, 原点を通るn本の直線をイメージして もらえばよいでしょう. これらの直線は, 2次元平面を2n個の扇形の部分に分けます. これらを超平面配置の部屋と呼びます. このように, 2次元の場合は部屋の数や形がすぐにわかりますが, 次元が高くなると, 部屋数や形などもなかなか知るのが難しい 対象です.
超平面配置に関しては, 様々な分野の数学との関連があるのですが (代表的なのは群論と超幾何積分), ここでは, 超平面配置の ヘヴィサイド関数 (ひとつの超平面の補集合の片側で1, 反対側 で0となるような関数) に話を絞ります. 超平面配置のヘヴィサイド関数を詳しく調べると, 色々な組み合わせ 的な不変量が出てきます. 代表的な不変量は, メビウス関数の価です.
また, 応用として, 個人の選択から, どのように社会全体の選択 を決めるか, という理論 (社会選択論) における結果をえることも できます. どの程度まで独裁制を排除できるか, という問題の ひとつのformulationを与えます. (予備知識は全く仮定しません.)
1960年代, Buchbergerと廣中平祐によって独立に発見されたグレブナー基底の 概念は, 多項式方程式などを取り扱うアルゴリズムを与えるものであり, 近年, コンピュータの目覚しい発達の恩恵を受け, 劇的な発展を遂げた. 「グレブナー基底」は現代数学を象徴するキーワードの一つであり, その理論と 実践は, 可換環論, 代数幾何などの純粋数学のみならず, 離散数学, 整数計画, 符号理論, 統計数学などの応用数学, 情報科学においても深い影響を及ぼしている. たとえば, 最近出版されたテキスト
[1] 日比孝之(編) 「グレブナー基底の現在(いま)」 数学書房, 2006年7月
を眺めると, その全貌が朧げながらにも理解できる.グレブナー基底の概念を理解することは難しくはない. JMO夏季セミナーでの私の講義 では, グレブナー基底に関する懸案の未解決問題の幾つかを紹介する. 夏季セミナーに 参加する諸君が, それらの未解決問題に挑戦し, 解決されることを願う. 予備知識は特に必要ではなく, 多項式環のイデアルの概念を知っている程度で十分で ある. なお, グレブナー基底の予備知識の簡潔な集約が[1]の序章にあるから, 予め, 理解しておくことが望ましい.
グレブナー基底の参考文献として,
[2] 丸山正樹「グレブナー基底とその応用」,共立出版,2002年10月
[3] 日比孝之「グレブナー基底」,朝倉書店, 2003年6月
を挙げる. 文献[2]はグレブナー基底の代数幾何への応用に力点を置いて解説した著書 であり, 文献[3]はグレブナー基底とトーリックイデアルの組み合わせ論との関係を紹介 した著書である.
- 第1部:科学における結び目(90分) 科学における種々の結び目現象の実例を示し, 数学研究の必要性を説明する. 絡み数の位相不変性を示し, それを用いて, メービウスの帯の右ひねりと左ひねり が移りあわないことの証明 (大阪府立天王寺高校3年生3人による), および 分子のカイラリティ (鏡像がことなること) にも応用できることを示す.
- 第2部:結び目や絡み目の整列順序とその分類法(90分) 結び目や絡み目の集合に自然な整列順序を導入し, その並べ方について説明する.