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セミナーで扱う本の紹介(2008年度)

目次

はじめての群論 - 斎藤正彦

群(ぐん)は, 数学や他の自然科学の多様な場面に現れる様々な対称性を扱うための概念です. 有限個のものの並び換えも平面や空間の変換も, 群という同じ枠組みで捉えられるのです.

また一方で, 群は多くの人にとって本格的に数学を学ぶと最初に出会う抽象的な代数構造でもあります. 「ある条件を満たす演算(足し算や掛け算を一般化したもの)を備えた集合」という定義に, 捉えどころがなく分かりにくいという印象を持つ人も少なくありません.

この本は, そのタイトルやカラフルな装丁からも窺えるように, 群を初めて学ぶ人のための入門書として書かれています. 数学的にしっかりとした記述でありながら, 豊富な練習問題や補足説明によって初読の際の取り組みやすさも実現されています. 対称群や行列群など具体的な例での議論が多く, 一般論が色々な場面で活きてくるのが実感できるのも特徴の一つでしょう.

もともと高校生向けに講義された内容をまとめたもので, 高校2年生程度を越える予備知識は要求されません. 高校範囲を越えた数学を初めて学ぶ方にはぜひお勧めしたい一冊です.

(文責:近藤)

代数的整数論 - 高木貞治

皆さんは, 「整数論」という言葉を聞いてどのようなものを思い浮かべるでしょうか?整数の約数や倍数, 素因数分解や, nで割った余りについて考える合同式, あるいは方程式の整数解や有理数解などが思い浮かぶことと思います. これらは有理数の範囲で考えた整数論だということができます. それをより広い数の世界「代数体」で考えたものが代数的整数論です.

代数体とは, ある整数係数の1変数多項式の根となる数(代数的数)および有理数から, 加減乗除の繰り返しによって得られる数の全体を考えたものです. 例えばx^2-2=0の解√2からは, {a+b√2|a,bは有理数}という代数体が得られます. このような広い数体系で整数論を考える利点はいくつかありますが, 最も分かりやすいのは多項式が因数分解されることでしょう. 例えば整数aに対してx^2-2y^2=aという方程式の整数解を考えてみましょう. この方程式は通常の整数の範囲で議論していたのではそれほど簡単には解くことはできませんが, 上記の代数体では(x-√2y)(x+√2y)=aと簡単な形に変形できます. 代数体における整数論に対する理解があれば, この方程式の解は, aの素因数分解の様子を考えることできわめて明快に記述できるのです.

代数的整数論は, まず代数体において何を「整数」と考えるかを規定し, そこでの素因数分解を考えることから始まります. 実は代数体においては, 素因数分解の一意性はそのままでは成り立たないのですが, 整数よりももう少し大きな乗法構造(イデヤル群)を考えると一意性が成り立ちます. 合同式の性質や, イデヤル群と整数のずれがどのくらいあるかなども精密に記述することができ, 通常の整数に勝るとも劣らない実に美しい充実した理論が繰り広げられていきます.

本書ではその代数的整数論の基礎が, 手法や記述はやや古典的であるもののとても丁寧に整理されて書かれています. 整数論に興味のある方には是非この本を通して代数的整数論の面白さ, 深みを感じてもらいたいと思います.

予備知識として, 線型代数の初歩を仮定します. 目安としては,

程度で十分です. これらは決して難しいものではないので, 代数的整数論を学んでみたいけれど線型代数は分からないという人はセミナーまでに自習してみるのもいいと思います. (自習書の一例として, 「佐武一郎『線形代数』(共立出版)」の6章までを挙げておきます. 他にも線型代数を扱った本はかなり多く, 上記の内容はほぼ全ての文献に書かれているので, 本屋や図書館などで自分が読みやすそうなものを選ぶとよいでしょう. )

(文責:西本)

曲線・曲面と接続の幾何 - 小沢哲也

曲面の曲がり具合を数学的にきちんと捉えるにはどうしたらいいのか, というのが本書のテーマです. この問いに対する手がかりは, 「球面のような曲がった面の上では, 平行移動という操作を行うことができない」, という事実です. この事情を正確に記述するための概念が, 本書のタイトルにも入っている「接続」です. 本書は, 接続を用いて曲面の曲がり具合(曲率)を定量的に定義し, さらに曲率の満たす深い規則性(ガウス-ボンネの定理)を導いています.

以上のような内容を展開するには, 微分形式をはじめとした様々な概念が必要になります. 本書は, 曲面という具体的な対象を一貫して扱う中で, これらの概念が自然に学べるように配慮されている良い本です. 最後に, 本書を読むにあたっての予備知識を序文から引用しておきます:

(文責:入江)

時空の幾何学 ―特殊および一般相対論の数学的基礎― - J・J・キャラハン著, 樋口三郎訳

相対論は, すべての物理法則はすべての観測者にとって同じ形に書かれなければならない, という相対性原理を仮定し, 演繹的な考察によって導かれた理論です. アインシュタインは相対性理論によってすでに知られている現象を説明し, 検証可能な予言を行いました. 後年, 予言は実際に正しかったことが確かめられています.

この本は「特殊および一般相対論の数学的基礎」という副題のとおり, 他の相対論入門書より数学に重点をおいて書かれています. 相対論というと, 時空が歪んだり, 時間の経ち方が変わるという話を聞かれた方も多いと思いますが, この本ではそれを微分幾何の言葉で綺麗に記述しています. また, 等速運動をする観測者についての理論である特殊相対論と加速度運動をする観測者も許容する理論である一般相対論を両方とも解説してある珍しい本です.

相対論は難しいと考えられがちですが, 特殊相対論に関しては, 高校数学の理解と高校物理(力学)の基礎的な知識があれば理解可能です. 一般相対論については, 偏微分など大学初年級の微分積分と線型代数の知識は予備知識として仮定することになりますが, セミナー中に適宜補っていきます.

(文責:今村)

基本 複素関数論 - 坂田泩

高校で学ぶ微積分は, 実数に対して定義された実数値関数に対するものです. その定義される値およびとる値の範囲を複素数の範囲に拡張したものが複素関数です.

複素関数に対しても実関数と同じように微積分を考えることができるのですが, 複素関数に対する微分可能という条件は実関数の場合よりもかなり強く, そのため微積分について実関数の場合よりも遥かに強い結果が成り立ちます. 例えば複素関数は微分可能ならば何度でも微分できることがいえますし, 微分可能な関数のある種の定積分は, 原始関数を具体的に求めずともいくつかの点の周りでの関数の情報から簡単に計算することができます.

また, ひとつの基本的な定理を証明してしまえば, それを応用することで実に様々な性質を示すことができるのも複素関数論の醍醐味といえるでしょう. 上に挙げた微分可能な関数の性質や, 1次以上の方程式は必ず複素数解を持つという代数学の基本定理, 関数を無限和の形として表すことができるというべき級数展開可能性など, 多くの性質が全て積分に関する基本的な定理から次々と導くことができるのです. また, 実関数の範囲で考えていたのでは難しい定積分の計算が複素関数の理論によりいとも簡単に計算できたりするのも面白い応用例だと思います.

本書は複素関数論について解説した本の中では比較的ページ数は少ないですが, その分初学者に学んで欲しい大事な事がしっかりとまとめられており, 短いセミナー期間中に通読する本としては非常に適していると思います. また具体例や演習問題も豊富に扱っているので, 自分で手を動かしながら楽しく理解を深められるのではないでしょうか.

予備知識としては, 高校で習う程度の複素数・微積分の知識を仮定します.

(文責:西本)

超積と超準解析 - 斎藤正彦

高校で学習する微積分, 極限などに関しては多くの「ごまかし」が行われています. 例えば関数が連続であることには「グラフがつながっていること」, 極限に関しては「限りなく近付く」のように直感的な説明しかされません.

大学に入ると, これらのことを「イプシロン・デルタ論法」と呼ばれるものを使って厳密に定義するやり方を習います(例えば実数から実数への関数f(x)がx=aで連続であるということは, 任意の正の数εに対し, ある正の数δが存在して |x-a|<δ ならば |f(x)-f(a)|< ε が成り立つこと, と定義される).

この方法を使えば確かに微積分・極限などは厳密に定義できるのですが, その一方で無限大や無限小(0にいくらでも近いが0ではないもの)を普通の数のように扱うことは不可能になってしまいます.

本書で扱っている「超準解析」は, 「イプシロン・デルタ論法」とは別の方向性として, 無限大・無限小・極限などを直接的に, しかし厳密に扱う理論です. この理論のもとでは, 無限大や無限小を普通の実数と同じような数学的実体としてとらえることができ, 四則演算も自由に行えます. このように実数を拡張したものを「超実数」といいます.

また, 超準解析は「イプシロン・デルタ論法」とは別の方向性といいましたが, 両者は関係がないわけではありません. 通常の実数の世界での命題を適切に超実数の世界に移してやれば, 元の命題が成立することと移した先の命題が成立することが同値になり, 超実数の世界での命題を示せば元の命題が示される, というようなこともできます. このように通常の世界から離れて, 超準的な世界で考えてみる, ということがさまざまな分野で重要な成果を残しています.

本書ではまず, 1章で超積(実数に対する超実数にあたるもの)を構成し, 連続・微分可能などという概念を超実数の言葉で書き換えて, いくつかのよく知られた性質を超実数を使って示します. 2, 3章では, 「モデル」という概念を使い, 上で述べた, 実数の世界の命題を真偽を保って超実数の世界に移しかえるというようなことをやります. 4章では, 2, 3章の結果を応用し, 位相に関連するよく知られた命題である, チコノフの定理と, ハール測度の存在を証明しています.

セミナーでは, 1章から順に読み進めて, 3章の終わりまで読むのを目標にしようと思っています. 4章に関しては, 位相について予備知識のある生徒が多ければ応用として面白いので3章を多少とばしてでも読めるとよいかなと思います.

予備知識は, 基本的には高校範囲の微積分, 極限を知っていれば十分です. ただ, 「イプシロン・デルタ論法」と対比している部分もあるので, 大学初年級で習うような解析の基礎について知っているとより分かりやすいと思います.

(文責:栗林)

〜洋書を読むにあたって〜

以下に紹介する四冊は洋書(英語の本)です.

洋書の数学書というと, 専門用語ばかりで全く分からないのではないかという印象を持つかもしれませんが, 決してそんなことはありません. 基本的に全ての専門用語は必ず定義が述べられるので, 知らない専門用語が突然現れることは (予備知識として仮定されている場合を除いて) ありません. また, 文法構造も単純なものばかりですので, 基本的には中学生程度の英語力で問題ありません. 難しいというよりも数学に独特の語法が多いですが, それもさほど多くのパターンがあるわけではないので, はじめは馴染めなくてもすぐに慣れてくるはずです. 洋書の専門書に触れる数少ない機会でもあると思うので, 恐れず積極的にチャレンジしてみるといいでしょう.

※洋書の選択を考えている人は(通常の)英和辞典を持参することをお勧めします. 数学英和辞典を持っているという方は, あわせてそちらも持参するとよいでしょう. 数学英和辞典を持っていない方は, こちらで何冊か用意して貸し出しますので買う必要はありません.

Topology from the Differentiable Viewpoint - Milnor

本書は, トポロジーという幾何学の一分野への入門書です. 幾何学は図形を調べる学問ですが, トポロジーで考える図形は「多様体」というものです.

多様体とは何かを説明するために, 曲面について考えてみましょう. 曲面のなかには, 球面のように穴を持たないもの, 浮き輪のように1つの穴を持つものがあります. さらには, 穴を100個くらい持つ非常に複雑な曲面もあるわけです. このように, 曲面のかたちにはいろいろな可能性がありうるわけですが, すべての曲面に共通する性質として, 「各点の十分近くをみると, 平面とおなじ姿をしている」ということがいえます. 曲面のこの性質に注目して, 「各点の十分近くで, n次元ユークリッド空間とおなじ姿をしている」図形を考えることができます. 2次元ユークリッド空間は平面に他ならないので, これは上でのべた曲面の性質を素直にとりだした概念になっているわけです. これがn次元多様体というものです.

曲面の例からも想像されるように, 3次元以上の多様体にもさまざまな形があります. そこで, それらの形を分類・整理しようというのがトポロジーの基本的な問題になります. その際, 基本的になるのが, 2つの多様体M, Nに対して, MをNの中に「写し取る」という操作です(数学の言葉で述べると, MからNへの「写像」を考えることになります). 写像に対して, その様子をとらえる「写像度」という整数を考えることができます. 写像度の厳密な定義はけっこう大変なのですが, トポロジーの問題を考えるうえでは非常に有効な概念になります.

本書は, この「写像度」を縦糸にして, 多様体の定義といったもっとも基本的なところから, かなり高度な話題(枠付きコボルディズム)までが一気に書かれた, とても面白い本です. 予備知識としては, 微積分と線形代数, および位相の初歩が必要です.

(文責:入江)

Introduction to Analytic Number Theory - Tom M. Apostol

解析的整数論とは, 整数に関する問題――たとえば, 「素数はどのくらい多く存在するか?」――に対し, 解析的な手法(関数を用いる, 微分・積分する)を用いて調べる分野です.

整数のような離散的な(散らばっている)対象について, 微積分を用いることが有力な手段になるとは, 最初はあまり思えないかもしれません.

例えば n の約数の個数を表す関数 d(n) を考えます. 確かに d(n) 自体はバラバラな値をとる, 微分などとはかけ離れた関数です. しかしこの関数の「部分和」, すなわち「n≦x に関する d(n) の和」という関数を考えてみると, 微積分を用いて評価することにより, この部分和は滑らかな関数 x log(x) でよく近似できることが証明できます.

また, 冒頭に述べた問題に関連して, x 以下の素数の個数を π(x) とおくことにします. 「素数定理」はギザギザな関数 π(x) が滑らかな関数 x/log(x) で近似できるという定理であり, 素数に密接に関連するある解析的な関数(「ゼータ関数」)の性質を調べることにより初めて証明されました.

本書はこのような分野の入門書であり, 上に例を挙げたような数論的関数の「部分和」の評価, 「素数定理」をやや弱めた結果などが示されています. また等差数列に含まれる素数の個数に関する「ディリクレの算術級数定理」も証明されていて(この定理でも解析的な関数(「L 関数」)や手法が重要な役割を果たします), セミナーが順調に進めばこのあたりまで到達できるでしょう. (「素数定理」自体の証明も載っていますが, おそらくセミナー中には到達できないと思います. )

高校で習う程度の微積分を知っている必要があります. 一方, 整数論に関しては初歩から話が始まるので, 今まで整数論を勉強したことがない人でも問題ありません.

(文責:松本)

Complex Algebraic Curves - Frances Kirwan

代数曲線とは, 大まかに言えば, ある多項式 P(x,y) の値を 0 にするような点 (x,y) の全体のことです. 直線や円, 放物線や双曲線などは高校でもおなじみの代数曲線です. これらは次数が 1 ないし 2 の(つまり, 1 次や 2 次の多項式で定義される)曲線ですが, もっと次数の高い曲線もあります.

ただ高校の数学では x,y の値が実数である点のみを考えていたと思いますが, より広く x,y が複素数である点を考えることにし, また多項式の係数の範囲も複素数まで広げることにしたのが, 複素代数曲線です.

複素数の範囲で考える利点のひとつには, (実数のときと違って)代数方程式が必ず解をもつことがあります. 例を挙げると, x^2+y^2+1 = 0 で定まる曲線と x^2+y^2-1 = 0 で定まる曲線は実数の範囲では様子が異なります(前者は空集合になってしまいます)が, 複素数の範囲で考えることにより統一的に扱うことができます.

本書では, 複素代数曲線をさまざまな視点から研究します. その一部を紹介します.

・代数的な話…… d 次の曲線と d' 次の曲線は高々 dd' 個の点で交わり, これより少なくなることもあるが, 「重複度」込みで数えるとちょうど dd' 個の点で交わること(「ベズーの定理」)を示します.

・幾何的(位相的)な話…… 曲線がどのようなかたちをしているかを考えてみましょう. 複素曲線は(実)4 次元の空間の中の(実)2 次元の図形なので, 実曲線の場合のようにグラフを描いて考えることは困難です. 複素代数曲線は「穴のいくつか空いた浮き輪」のような形をしていることを(穴の数がいくつになるかも含めて)証明します.

なお, これらの話を正確に(かつ自然に)展開するには, 曲線に「無限遠点」とよばれる点をいくつか付け加えることが必要です. このあたりのこともこの本で説明されています.

この本では, 微積分の初歩(偏微分など), 位相空間論の初歩(コンパクト性, ハウスドルフ性, 商位相など)を仮定しています.

(文責:松本)

Introduction to Graph Theory - Robin J. Wilson

グラフとは, いくつかの頂点とそれらの間を結ぶ辺からなるものです. グラフ理論においては, 各頂点の位置や各辺の形は考えません. 与えられた頂点の集合に対し, どの頂点どうしが辺によって結ばれているかという情報のみから得られる様々な性質を考えます.

グラフ理論における問題の一例として, 有名な問題である一筆書きの問題―「(グラフ理論の言葉でいえば)任意の辺を一度ずつ通るような道が存在する必要十分条件とは?」―があります. グラフ理論を学ぶことで, 一筆書きができるかどうかを簡単に判定できるようになります.

グラフ自体は頂点と辺からのみなる単純な対象であり, それほど多くのものは得られないと考えられる方もいるかと思います. しかし, グラフ理論を用いて示されていく事実は実に簡潔で美しいものです. 「すべての地図は四色で塗り分けられる」という主張である四色定理などはその最たる例でしょう(本書では五色を用いれば塗り分けられることを示します).

また, 証明にテクニカルなものが多く, 論理として面白いものが多いこともグラフ理論の面白みだといえます.

本書では, まずグラフ理論で必要となる用語を定義します. そして, 「道・閉路」, 「木」, 「平面性」, 「彩色」などのグラフ理論における主要な概念を紹介しながら, 上記の一筆書きの問題をはじめとしたそれらに関する定理を示していくことになります. 自分でグラフをかきながら証明を追うことで楽しく読み進めることができるかと思います.

予備知識は特に必要ありません.

(文責:伊藤)