Milnor, "Topology from the Differentiable Viewpoint"

微分トポロジーは,なめらかな変換で変わらない図形の性質を研究する 幾何学の一分野です.

本書の section 1 では,微分トポロジーを展開するための言葉を導入します. 例えば,上の文の「なめらか」という表現は「 C 級」という言葉により, 「図形」という表現は「多様体」という言葉により定式化されます. それにとどまらず,はやくもそれらの概念を応用して代数学の基本定理が証明 されます.

その後,初等的な微分トポロジーの様々な結果:サードの定理,ブラウアーの不動点定理, 写像度の定義,ポアンカレ・ホップフの定理,等が次々と扱われます.

筆者はきわめて鮮やかに議論を展開していますが,その一方で読者がいろいろ 考えながら読む(この定理の仮定をこう変えたらどうなるの…?等)余地も 多いにあると思います.

本書を読む際には,微積分と線形代数に関する予備知識が必要です. とはいっても,とりあえずセミナーをすすめるために必要な知識はそれほど多くありません. ひとつの基準として,以下の言葉の定義を知っていれば問題ないと思います.
微積分:多変数関数の偏微分と全微分
線形代数:ベクトル空間(とその次元),線形写像,行列式

文責:入江

Nathanson, "Elementary Methods in Number Theory"

この本の主題はタイトルの通り,初等的な方法で整数論の重要な定理を示すことです.

この本は Part 1, 2, 3 に分かれています.
Part 1 では整数論の基本的事項,有限アーベル群上のフーリエ解析の入門,abc予想の3つの話題が書かれていますが, 後者の2つは Part 2 以降を読み進めるのに必要ありません.
Part 2, 3 にはさまざまな整数論の深い結果の初等的証明が書かれています.
Part 2 ではチェビシェフの定理,素数定理,ディリクレの算術級数定理などの 主に素数に関する定理の証明がなされていて, Part 3 ではウェアリングの問題,整数を偶数個の平方数の和としてあらわす方法の数, 分割数の近似など加法的な問題を扱っています.
それぞれの内容はほぼ独立なので(特に Part 3 ),前から順に読まなくても理解できるでしょう.

大部分が初等的な証明なので,高校数学を知っていればそれ程支障は無いと思いますが, 実解析や代数の知識があった方がいい場面も少しあります. セミナー中に全部読みきるのは無理なので, Part 1 の基本事項を軽く読み,残りは飛ばして Part 2 以降は集まった人たちの希望に応じてどこを読むか,ということを決めたいと思っています.

数論の,有名ではあるが証明はあまり知られていない定理が, 初等的な方法で示されているので,数論が好きな人にとってはなかなか面白い本だと思います.

文責:栗林

Silverman, Tate, "Rational Points on Elliptic Curves"

y2 = x3 + ax2 + bx + c ( a, b, c は定数)の形の方程式が与えられたとき, この方程式をみたす点 (x, y) 全体のなす曲線を 楕円曲線(elliptic curves)と呼びます. このような曲線が与えられたとき, この曲線に有理点(rational points: x 座標も y 座標も有理数である点)や 整点(x 座標も y 座標も整数である点)ははたして存在するか, また存在するなら無限個か有限個か, という興味ある問題が発生します. 一般にこのような問題に答えることは簡単ではありません.

楕円曲線特有の(一般の曲線にはない)性質として, 曲線上にある2点を「足し合わせて」新たな点を得る操作が存在し, さらにこの操作による有理点と有理点の「和」はまた有理点になるということがあり, このことから,さまざまな興味深い性質が導かれます.

本書は,楕円曲線およびその上の「加法」の定義から出発し, 「与えられた楕円曲線上の有理点はすべて,ある有限個の点を足し合わせることで得られる」 (群論の用語を用いれば,「有理点のなす群は有限生成である」)などといった 興味深い定理を証明していきます. 丁寧に説明されていますので,はじめて楕円曲線に触れる人でも問題なく読み進められると思います.

予備知識は特に仮定されません.「群」について多少知っているとよいですが,必須ではありません.

文責:松本

足立恒雄「ガロア理論講義」

2次方程式と同様に,3次,4次方程式には解の公式がありますが, 不思議なことに5次以上の方程式は解の公式が存在しない, すなわち代数的に解けないという定理があります. この定理はアーベルとガロアにより証明されたものですが, その際にガロアの造った理論は単に非可解性を証明するにとどまらず, 方程式論に深い理解をあたえるものでした, 他にも,ガロアは決闘で命を落とすまでのわずか20年という人生の中で 後世の数学者達に影響を与える多くの研究成果を残しています. 彼が作り上げた,「ガロア理論」を体系的にまとめたものが本書です.

第一章では,(主題からは多少はずれますが)導入として 体に関する少々の知識を用いて証明できるギリシャの三大作図問題についてとりあげていて, 第二章では,ガロア理論を理解する際に必要となる群論と体論の基礎について学びます. 第三章以降で本格的なガロア理論の世界に足を踏み入れることになります. セミナー中に第三章あたりまで行きたいと思っています.

「ガロア理論」を学ぶ際に,「群」や「体」といった抽象的な概念に,はじめは戸惑うかもしれませんが, これらは現代数学のさまざまな分野に応用されている重要な概念であり, 数学を研究する上で避けて通れない分野です.

本書は特に前提とする知識を必要とせず,「群」についてまったく知らないという初心者の方でも読みやすい良書といえるでしょう.

文責:清水

新井仁之「フーリエ解析と関数解析学」

19世紀初頭,数学者フーリエは論文「熱の解析的理論」の中で, 周期 2π をもつすべての関数 f(x) は三角関数の無限和として

f(x) = a0 + Σn=1 ( ancos nx + bnsin nx )

の形に展開できる,と主張しました. 右辺の級数を「フーリエ級数」と呼びます.

彼のこの主張は(現代的な意味では)厳密には成り立ちませんでしたが, すべてではないにしろきわめて多くの関数が「フーリエ級数展開」可能であることから, 彼の着想・手法は微分方程式論など関数解析学の進歩に大きく寄与し, また物理学などにも幅広く応用されています.

セミナー中に読めるのはおそらく第一部までになるでしょうが, フーリエ展開に始まり,微分方程式,フーリエ変換,超関数などを通して 関数解析学を系統的に学ぶことができます.

高校範囲の微積分の知識は必須です. 大学初年級の解析学も多少知っていることが望ましいですが, これに関しては意欲があればその場で学ぶことも可能だと思います.

文責:松本

新井仁之「ルベーグ積分講義―ルベーグ積分と面積0の不思議な図形たち」

三角形の面積は小学校で学ぶように,「1/2×底辺×高さ」で定義されます. しかし,一般の図形に対しては,直感的にはその大きさを表す 「面積」は当然図形ごとに備わっているようであっても, それが改めて何かと問われると,厳密に答えるのは難しいでしょう.

その一つの方法が積分であり,連続関数で囲まれた部分の面積は 高校で学ぶように積分で定めることが出来ます (面積は積分で求められるという記述もしばしば見受けられますが, 面積は初めから当然あると考えられるわけではなく, 積分で面積を定義していると考える方が正しいでしょう). しかし,そこで学ぶ積分(リーマン積分と呼ばれる)では, 面積の定められる対象は非常に限られています. 例えば, {(x, y) | 0≦ x, y ≦1, x, y は有理数} というような点集合について, 面積を考えることは出来ません.

高校までの数学における「面積」の考え方を一般化したものが (2次元の)「ルベーグ測度」です. ルベーグ測度は,長方形の面積,交わりのない点集合の和集合などに関する 簡単な公理を満たすものとして定義され, それによって高校までの数学においては面積を考えられなかった点集合に対しても 面積を考えることが出来るようになります. また,様々な点集合の大きさが測れるようになることで, 高校までのリーマン積分の一般化である「ルベーグ積分」を定義することが出来ます.

本書ではこれらの測度,積分についての入門書です. セミナーにおいては,ルベーグ測度の構成やその合同変換による不変性, ルベーグ積分の定義とその性質が主なテーマとなるでしょう. 図や例も多く,開集合や閉集合などの基本的な事柄から説明されているので, 初学者も安心して取り組めると思います. 実数や極限に関する基本的な性質をある程度知っていると取り組みやすいでしょうが, それについても付録に簡潔にまとめてあるのでセミナー中に身につけられると思います. セミナーの進度に応じて,様々な「面積が0」の集合に関する不思議な話題を多く扱えるでしょう.

文責:西本

深谷賢治「解析力学と微分形式」

物理学と数学は密接に関連しながら発展してきました.

解析力学は,ニュートンの運動方程式(連立微分方程式になります)を 変数変換を利用して解く、あるいは近似して数値計算に持ち込む,といった分野です. この変数変換において,数学的な概念である微分形式が活躍します. この本では,まず第一章で解析力学の基本を扱い, 次に第二章で微分形式を導入し,第三章で微分形式を用いて解析力学が展開します. 微分形式は多様体を学ぶと出てきますが,第三章においてそれを具体的な形でみることができます.

数学者の書いた本ですが,数学畑の人に物理を紹介することを目的としていて, あまり数学には深入りせず(証明などを飛ばしている部分もあります), 数学書の中では物理に近い本です. 純粋な数学に興味があり自分で物理をやることはなさそうだ, という人はこういう機会を利用して,物理のことも知っておくといいのではないでしょうか. もちろん,物理が好きな人も面白く読めるはずです.予備知識はほとんど要りません. 高校範囲の力学(エネルギーや運動方程式)と微分(の基本)くらいは 知っていたほうが楽かもしれませんが,その場でおぎなえる範囲でしょう. また,この本は「電磁場とベクトル解析」の続編という位置づけなので, 定理などを引用している部分が若干ありますが,これもその都度おぎなえばよいでしょう.

読み方はメンバーが決まってから相談して決めることになるでしょうが,本の趣旨に そって読むなら,第三章の途中までは読むことができると思います.

文責:三谷(明)