集合への30講

集合とは何だろうか。 端的にいえば、おそらく人類が原始の時代から持っていたであろう、 「ものの集まり」という考え。 近代、数学の形式化・厳密化が進んだことにより、 集合の概念は重要性を増し、 現在では、数学の大部分が集合論抜きでは語れなくなっている。 たとえば、微分方程式など、関数に関する方程式を考察するには、 そもそも関数とは何かということ、 すなわち関数全体の集合というものを意識しなければならない。 また代数の分野も、集合の理論と無縁ではない。 たとえば、超越数が無限に多く存在するという事実は、 集合論的手法をもって容易に示すことができる。 このように、集合論はすべての数学の基礎となるものである。

さて、集合論の考察の対象となるのは、もちろん集合であるが、 その中でも無限集合が焦点となる。 無限集合の著しい性質は、それ自身のある真部分集合と一対一に対応するということである。 有理数全体の集合と自然数全体の集合との間においてさえ、 一対一の対応が存在する。 その一方で、無限集合と無限集合の間にも階層があることが知られている。 いかなる「無限」に対しても、それより「大きな無限」が存在するのだ。

本書では、このような集合の不思議な世界に、 あまり深入りはしないにしろ、その一端に手を触れることとなる。

なお、本書は初学者でも読めるように書かれているので、予備知識はほとんど要しない。 「集合」という言葉を教科書で見たことがあるだけでも十分だろう。(文責:松本)

平方剰余の相互法則

素数pが与えられた時, 整数aに対してx^2-aがpで割り切れるような整数xが存在する時, 整数aを平方剰余, そうでない物を平方非剰余と言います. pが大きくなってくると , 定義からある整数が剰余か非剰余かを判定するのは非常に難しくなります. しかし実は平方剰余の相互法則という綺麗な法則があり, それに従えば比較的大きなpに対しても整数が剰余か非剰 余かも簡単な計算で調べられます.

この「平方剰余の相互法則」は二次体論などにおいても非常な定理です. Gaussもこの定理を重要視し, 生涯にわたり7通りの全く異なる証明を残しました. この本にはその7つの 全証明が紹介されています. 各証明異なるアイディア, 手法, 道具が用いられており, 平方剰余の相互法則だけでなく様々な数論的な考え方に触れる事が出来ます.

前提知識も本で紹介されており, 数論に不慣れな人も楽しめる内容となっています. また付録として3次4次剰余の相互法則も紹介されており, 初等整数論をよく知っている人にとっても満足のいく内容になっていると思います.(文責:西本)

位相幾何(岩波現代数学の基礎シリーズ)

幾何学という分野は、簡単に言うと図形を調べるものです。そのなかの、位相幾何(トポロジー)という分野はおそらくあまり世間一般には知れ渡っていない(?)一見変な学問です。幾何学では図形たちのうち、どの程度似ているものを同じとみなすかによって様々な幾何学ができるという見識は19世紀クラインという数学者の講演で確立した考え方ですが、位相幾何では一見かなり違う(たとえばコーヒーカップとドーナッツ)ものでも、それが粘土でできていると思ってぐにゃぐにゃ変形(ちぎったり、ある点同士をくっつけたりは×)していけるものは同じとみなします。位相幾何学というのは厳密なことをいいますと、現代の数学ではまず集合に位相空間という構造を入れて厳密な議論を展開していくべきものですが、この本ではまったくその厳密性を度外視して、わりと自由な発想の下、位相幾何を目で直感的に見ていこう、お話も見ていこうというような要素を含んだものです。予備知識としては、群(・準同形や環)という概念がわかっていると、わからないことがなく読めるはずです。それについて知らないという人はセミナー前に若干永田「代数学入門」のはじめのあたりなどでそれを補ってもらえるとすいすいセミナーが進みます。(永田を読むのに特に予備知識は要らないはずです、集合くらい)

話としては図形をいつ同じにみなすかというのを、アルファベットの文字たちで例を見るとことから話が始まって、最終的には位相幾何で大変重要な分類空間(知っている人向け注:図形からある不変量へ、といったある「よい」種のfunctorを統制している図形です。)や特性類といった話まで(まったく下から厳密に積み上げられて議論されるわけではありませんが)書かれています。

位相幾何は、そこで生まれたホモロジー・コホモロジーなどの概念を一として、また、そのパートナーである微分幾何(硬い幾何学)と思わぬ形で関連し、ゲージ理論など深い物理の理論などと非常に密接に関係をしていて(いるので将来物理をやりたいという人もぜひ)、あるいは一見関係のない他の数学の分野にも多大な影響力を及ぼしている分野なのです。

中学高校では触れられることのない、まったく新鮮な(?)やわらかい幾何学へ、その皆さんのやわらかい頭を突っ込んでみることにしませんか?!(文責:尾高)

分割の幾何学

「与えられた長方形が、縦横の比が有理数の有限個の長方形で分割されれば、もとの長方形の縦横の比も有理数である」
「正四面体を有限個の多面体に分割して、それらを組み合わせて直方体をつくることはできない」
というのがデーンの2つの定理です。

これらの定理に関連した数学のいくつかのトピックを横断的に扱っている面白い本です。(文責:大島)

新ゲーム理論(著:鈴木光男)

ゲーム?と思った方がいるかもしれません。数学の理論というのは、必ずしも一見中高生の方がイメージするものだけとは限らず、ゲームにおいて、お互いが最善を尽くすとどうなるかという話にもいたるわけです。たとえば、オセロやチェス、ポーカーなど。ただし、ここでいうゲームというのは、より広い意味で扱われるものでして、ゲーム理論とは硬く言いますと「お互いの利益が行動・戦術によって決定されていくものにおいて、みなが最善を尽くしたときの現象解明」という意味なので、なんと!現代での経済学・オペレーションズリサーチ・政治学・社会哲学・や、はたまた(進化)生物学(いかに子孫を残すかなど)に有効な手段をあたえてくれる内容・数学的理論となっています。

"Beautiful Mind"という映画を見た方は多いかもしれません、あれはナッシュという数学者・経済学者の半生をつづったものですが、彼こそが、ゲーム理論に、ある種の「最善を尽くした際の結果」の概念を定義し、一石を投じた学者です。

囚人のジレンマという話があります。2人の囚人(共犯)が牢獄で問い詰められます。「ヤイヤイ、オマエヤッタロ?」と。Yes/Noの2通りの答えがあり、一方のやつだけYesといいますと自白しなかった方は大いなる被害を被りますが自白した方は釈放です、ともに自白しますと罪が重くなります。また、共にNoですと、罪はそのままです。そのとき、あなたはどうしますか?ありきたりの心理ゲームではなく、これはゲームにおいて、協力をすることの意味が生じるようなタイプです。このように協力型、難解な場合にどう行動するかという話にまで発展するわけですが、この本では協力型のある種の「解」までいくつか提示しています。ゲーム理論の本としては協力型にまで言及したmajorな良書として知られている本のようです。

というわけで、みなさん是非ゲーム理論の世界へ足を踏み入れましょう。この世界の魅力的なところのひとつは、予備知識が「あまり」いらないということです。ただし、厳密な理論展開を要求することだけは覚えておいてください。予備知識としてはまず何もしらなくてもかなりの部分に手はつけられると思います。より深いところまで行きたい方はn次元(ユークリッド)空間の定義、一般の行列のお話、連続写像の不動点定理と凸集合に関する分離定理ほどでよいでしょう。それだって、足りない方は、これに参加できるような皆さんでしたら、数週間がんばってみてもらいますと、すぐに身につくものです!!

そして、何を隠そう、僕もこの世界ではかなりの学びたてです。よろしく。(文責:尾高)

An Introduction to Geometry of Numbers (著:Cassels)

格子点や凸図形といった素朴な幾何学的対象はみなさんにも馴染み深いものだと思います.
これらの図形に対しては証明も結果も幾何学的に興味深い色々な定理がえられます.
これらの定理はそれ自身面白いものですが、さらに面白いことに、その応用として様々な深い整数論の
定理が得られるのです.
以上のような話はMinkowskiにより創始され、「数の幾何学」と名づけられました.今回勉強する本は
数の幾何への有名な入門書です.
本書の特徴として、分厚い本ではありますが各章の独立性が高いので五日間という短い期間でもかなり充
実したゼミとできることが挙げられます.
どこを読むかはセミナーの初日に決めようと思っていますが、いまのところ「Minkowskiの凸形定理」という美しい
定理と、その応用を目標にすえる予定です.この定理の応用としてある非常に有名な整数論の定理が示さ
れます.「ある定理」が何かは当日のお楽しみです.
予備知識として、線形代数を見たことがないと少しきつい部分があります.それでも周りの人に聞くなり
すれば問題はないと思います.(文責:入江)