みなさんは2次方程式の解の公式についてはよく知っているでしょう.少し数学に興味がある人なら3次方程式の解の公式も知っていることと思います.一方で「5次以上の代数方程式に"解の公式"がないことが証明できる」というフレーズを耳にしたこともあるのではないでしょうか.しかしながら現代では,コンピュータでいくらでも精度よくこれらの解を計算できることも私たちは知っています.ではここで問題となっている"解の公式"とはそもそも何でしょうか?その意味が確定したとして,どうして「存在しない」ことが証明できてしまうのでしょうか?一見するとまったく異なる2次方程式の解の公式と3次方程式の解の公式に共通の構造を見出すことは可能でしょうか?これらの問題については大変明快で美しい理論が知られています.それがこの本の主題であるガロア理論であり,わずか21歳で決闘に倒れたフランスの天才数学者エバリスト・ガロアが打ち立てた数学における一つの金字塔といえるでしょう.ガロア理論を解説した本はかなりの数がありますが,まずみなさんはこの本の薄さに驚くでしょう.「高木-アルティンの類体論」で知られる著者の語り口は大変軽快で,出だしでは必要最小限の線型代数の知識が要領よくまとめられており,最後には一般の角の3等分のコンパスと定規による不可能性と,上記の解の公式の不可能性が述べられています.少し古い本なので現代風の取り扱いがなされていない部分がありますが,そこは古典といえるところかもしれません.
この本は決してやさしいとはいえませんが,ガロア理論の魅力がコンパクトにまとまった大変魅力的な名著です(とともに,こんな本がわずか800円程度で手に入るなんて何てステキなことなんでしょう).セミナーでは解の公式の不可能性の証明を目標に,不必要な箇所は適宜省略しながら読み進めていくことになるでしょう.
整数論における最も基本的な問題の1つに,不定方程式の整数解を求めるというものがあります.有名なフェルマーの最終定理などが代表的な例でしょう.このような問題に取り組むとき,いきなり整数解を探すよりも,素数pで割った余りにまず注目するのが有効です.こうして,有限体 Fp = Z/pZ が整数論に現れます.また,mod p の情報だけでは不十分でも,mod p2,mod p3,...とだんだん細かくしていくことで必要な情報が得られることもあります.このように,mod pn の情報をひとまとめにしたものをp進数といいます.本書「数論講義」の第1章,第2章では,この有限体,p進数がそれぞれ主役であり,方程式論との関わりがセンスよく書かれています.平方剰余の相互法則が始めの10ページ程度で証明されてしまうことから分かるように,初等的に書かれているとは言えませんが,魅力的な題材が詰めこまれた宝箱のような本であり,セミナーでの議論を通して整数論の魅力を肌で感じとることができるでしょう.
また,セミナーでは扱うのが難しいでしょうが,本書の後半では算術級数定理や保型形式などのトピックも扱われており,その部分も非常に名著であることを付け加えておきます.
1本の紐の両端をくっつけたものを結び目と呼びます。たとえば、図1や図2は結び目の例です。図1の結び目をどのようにいじっても図2のようにほどくことは出来ないことを、我々は経験的に知っています。しかしながら、このことを数学的に厳密に示すことはかなり難しい問題です。
三つ葉結び目 自明な結び目 この本の第1章では、図1の結び目や他の様々な結び目が(図2のように)ほどけないことをいくつかの方法で示しており、セミナーではこの章を理解することが目標となるでしょう。
*2001年8月のJMO夏季セミナーまたは2002年7月の筑波大付属駒場高校における児玉の講演を聴いた生徒には、この本の第1章の内容の大部分が既知なので、他の本を選択することを薦めます。
(2009年追記)引継ぎ不備により,図の画像は失われました.
平行線公理直線L上にない点Aを通り, Lに平行な直線がただ一つ存在する.が成立しないような幾何学を非ユークリッド幾何といいます.比較的理解しやすい例として球面上の幾何がありますが,この場合「〜平行な直線は存在しない」となります.この本の主題となる双曲幾何では逆に「〜平行な直線は無限に存在する」となります.前半では高校数学の複素数の知識だけを前提として双曲幾何を導入します.IMO用知識として「反転」を知っている人はより親しみやすいと思います.双曲幾何は複素数の調和性と結びついた美しい性質ゆえに,単なる非ユークリッド幾何の一例というのにとどまらず,現代幾何学において中心的役割を担っています.後半では現代幾何学への橋渡しとなるいくつかのトピックを紹介します.
長方形の面積が縦×横で,三角形の面積が底辺×高さ÷2で求められることはみなさんご存知でしょう。また,積分を学んだ人は,放物線で囲まれた図形など,より複雑な図形の面積も求めることができることと思います。しかし,そもそも面積とは何でしょうか。歴史的には,アルキメデスが紀元前3世紀に放物線で囲まれた図形の面積を求めてから2000年以上たった19世紀になって初めて,一般の図形に対して面積を定義するという視点から研究が行われるようになりました。19世紀には,いくつかの方法で面積が定義されましたが,現代では,1900年ごろにルベーグが提唱した定義が広く認められており,このことから面積のかわりにルベーグ測度ということばがしばしば用いられます。
本書の第I部は,このルベーグ測度の理論の解説にあてられており,セミナーではこの部分を中心に学ぶことになるでしょう。
自然数 n に対して,nの階乗 n! = 1×2×…×n は,組み合わせの問題を考える際によく登場する関数で,親しみがあることでしょう.この関数を,一般の実数 x に拡張するにはどうしたらいいでしょうか.実は,階乗関数のもつ性質と解析的なある自然な性質をもった関数は,本質的に一通りに定まり,これをガンマ関数といいます.
本書では,ガンマ関数の様々な性質を示すことが主な内容となっていますが,付録で解析学の必要な知識を分かりやすくまとめてあり,解析学に慣れるためにもよい本でしょう.
セミナーでは,本論の部分を進めていくことになりますが,内容の量も手ごろで,セミナーの間に内容のほとんどを扱うことができるでしょう.
数論,組合せ論,グラフ理論,その他の幅広い分野において大きな業績を残した放浪の天才数学者ポール・エルデシュは,好んで"THE BOOK"の話をしていたといいます.珠玉の定理と深遠な証明のみが書かれている"THE BOOK"が存在するあるはずであると.You need not believe in God but, as a mathematician, you should believe in THE BOOK. この本は"THE BOOK"そのものではありませんが,中学数学から大学教養過程程度の知識まで理解できる話題であって,"THE BOOK"に含まれるであろう候補を集めた野心的な作品です.数論,幾何学,解析学,組合せ論,グラフ理論の各分野から幅広い話題が選択されており,美しい定理,エレガントな証明,興味深い例などを鑑賞することが出来ます.各分野から一つずつ話題を拾ってみましょう(もちろん,話題の解釈は筆者によるものです):
- Wedderburnの定理(かの有名なAndré WeilのBasic Number Theoryの最初に登場する定理です)
- オイラーの贈り物(Eulerの公式, Sylvester-Gallaiの問題, 単色直線, Pickの公式)
- 多項式だっていろいろ(Pólyaの多項式, Chebyshevの多項式)
- 洗濯機は俺にまかせろ(Spernerの補題, Brouwerの不動点定理)
- To be or not to be, that is the problem(Probabilistic method)
この本は,各トピックスが独立していますので,セミナーの進め方には多少の自由度があります.通常のセミナーのように頭から読んでいってもよいでしょうし,興味のある部分だけを鑑賞していってもよいでしょう.自分の知識にあったトピックを選ぶことで,無理なくセミナーを進めることが出来るハズです。工夫して楽しいセミナーにしていってください.現代数学とは一風異なった数学の世界を垣間見ることが出来るでしょう.
原始人にとっては、木の上り下りに苦労のいる上下方向の1次元と、前後左右の2次元は全く異なるものに見えていたでしょう。しかしこれは地球上に住んでいるという特殊性から来ているもので、我々は宇宙に出れば3つの方向はまったく同等 -- 対称 -- であることを知っています。おなじように、皆さんには空間の3次元と、時間1次元は全く異なるように思えるかもしれませんが、Einsteinは100年ほど前、この4つの方向が対等であることを見出しました。この本は、その簡明な解説です。式変形は平明で戸惑うことはないでしょうが、日常語で書かれている本文のほうがかえってクセモノかも知れませんよ。著者のFeynmanは偉大な物理学者で、その業績もさることながら、非常に明快な講義やまたそのwitによっても知られています。まずは「ご冗談でしょうファインマンさん」を、また物理に興味を持った方は、"Feynman Lectures on Physics"をぜひ読んでみてください。目からうろこが落ちること請け合いです。今回ゼミで使う本は、これからの抜粋です。
この本は訳者代表の太田さんが「是非,翻訳したい」という熱意からできた本です.翻訳の話を私に持って来たとき,太田さんは「マサチューセッツ工科大学でのSipser先生の名講義に魅せられた」と言っていました.実際に翻訳してみると,講義が,そのまま本になったような素晴らしい本でした.この本は「計算の理論」の世界への道案内です.コンピュータ・サイエンスの基礎となっている「計算の理論」では,従来の数学とはひと味もふた味も違った「数学」が展開されています.そして未解決の問題が山ほどあるのです!皆さんの何人かは,この新しい世界に引きずり込まれるかもしれません.
「計算の理論」には,非常に多くの話題があります.この本でも,多くの話題が取り上げられています.ゼミでは,多分,そのうちの1つか2つに的を絞って勉強していくことになるでしょう.