☆ 第 12 回JMO夏季セミナーの記録 ☆

第 12 回JMO夏季セミナーは, 2012 年 8 月 22 日(水)〜 28 日(火)の 6 泊 7 日で, ヴィラ千ヶ滝(山梨県清里高原)で開催しました. 参加希望者には事前に, 自分が数学に関して研究したもの, 興味をもったことについてのレポートを送ってもらい, それによって選抜を行いました(2012年度春の合宿参加者のうちIMOおよびCGMO候補者は優先的に参加することができました. 選抜方式は年によって変わります). 参加した生徒は男子32名, 女子3名の計35名で, 中学2年生から高校3年生までわたる幅広い層からの参加が見られました. また, チューターとして17名の大学生・大学院生も参加しました. 当セミナーは数学オリンピック財団の主催で運営されています.

概 要

講義 (3,4 日目 午後, 5 日目 午前) およびゼミを行いました. 5日目の夜には, 親睦を深めるためバーベキューを行いました. また, 1日目の夜には希望者による自由発表があり, 3名の生徒が自分の数学に関する研究成果について発表してくれました.

ゼミではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち1冊の本を読みすすめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発表しました.

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講 師

講義の紹介

三枝崎剛先生 (大分工業高等専門学校)「符号と格子の周辺」( 8 月 24 日)

概要

2符号と格子の理論について解説する. 符号とは, 情報伝達の効率化を目的として導入された概念であるが, 数学的にも非常に面白く, 沢山の研究が行われてきた. 例えば, 格子の理論との類似性などは, 現在最も盛んに研究されている話題の一つである.

講義の第 1 部では, 符号・格子を定義し, 最も重要な例として, ゴレイ符号, リーチ格子を紹介する. そして, 符号から格子を構成する方法を述べ, なぜ両者は似ているのか, という問題を議論したい. 特に符号・格子のⅡ型というクラスを紹介し, それぞれから定義される, 符号の重さ枚挙多項式, 格子のテータ関数が, それぞれ群の不変式, モジュラー形式になっている事実を見る. 時間が許せば, 散在型単純群である, マシュー群とコンウェイ群との関係も紹介したい.

第 2 部では, デザイン理論と符号・格子の関係を紹介する. ここで扱うデザインとは, 組合せデザイン, 球面デザインと呼ばれるものである. 組合せデザインは古くから研究されて来た概念であるが, アスマス‐マトソンの定理によって, 符号と関係付けられた. その関係に着目し, 格子と球面デザインに類似の関係をベンコフは見出した. そのあたりの歴史, 証明などを概観する. そこでは, 第 1 部で導入した, 符号の重さ枚挙多項式, 格子のテータ関数が重要な役割を果たす. そして最後に, 皆さんにぜひ考えて欲しい未解決問題を列挙して, 講義を終える予定である.

竹山美宏先生 (筑波大学)「可解模型と組合せ論」( 8 月 25 日)

概要

物理現象を数学的に理解しようとするとき, その現象の模型 (モデル) を作って解析します. たとえば, 強磁性体 (磁石) を熱していくと磁性が弱くなり, ある温度を越えるとまったく磁石でなくなることが知られています. この現象は, 正方格子上に小さな磁石が並んだ模型を考え, それを数学的に解くことによって説明されます.

物理現象を記述する模型は, 一般的な仮定の下では解けないことが多いのですが, ある特殊な状況では (難しいけど) 解けてしまうことがあります. このような模型は可解模型と呼ばれ, 数学の様々な問題と関係することが知られています. 今回の講義ではその一例として, ある数え上げの問題が可解模型を使って解けたという話を紹介します.

田中一之先生 (東北大学)「解ける問題と解けない問題」( 8 月 26 日)

概要

2012年は英国の数学者チューリングの生誕100年である. TIME誌が前世紀の偉大な科学者20人 (組) の一人に選んだ有名人だけあって, 記念の催しが世界各地 (日本は?) で行われている. 「解ける問題と解けない問題」というのは, 彼が没年 (1954年) に発表した解説論文の題名だ. 本講演では, このチューリングの遺作を手掛かりに, 数学において「問題を解く」ことがどういうことなのかについて考えてみる. どんな難問もいつかは解けるという素朴な予想に反し, 決して解けない問題があることを示したチューリングの議論についても簡単に紹介しよう.

予習しておきたい人は, 雑誌『数学セミナー』7月号の私の解説記事を読んでおくと良いかもしれない (必要はないが) 他にもなるべく身近な面白い話題をたくさん用意して行きたいと思うので, 乞うご期待. では, お会いするのを楽しみに.

最終更新日:2012年9月7日
JMO 夏季セミナー運営委員会
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