☆ 第 11 回JMO夏季セミナーの記録 ☆

第 11 回JMO夏季セミナーは, 2011 年 8 月 21 日(日)〜 27 日(土)の 6 泊 7 日で, ヴィラ千ヶ滝(山梨県清里高原)で開催しました. 参加希望者には事前に, 自分が数学に関して研究したもの, 興味をもったことについてのレポートを送ってもらい, それによって選抜を行いました(2011年度春の合宿参加者は優先的に参加することができました. 選抜方式は年によって変わります). 参加した生徒は男子29名, 女子4名の計33名で, 中学2年生から高校3年生までわたる幅広い層からの参加が見られました. また, チューターとして15名の大学生・大学院生も参加しました. 当セミナーは数学オリンピック財団の主催で運営されています.

概 要

午前中に講義(第 2,3,4 日), 午後・夕食後にゼミを行いました. 5日目の夜には, 親睦を深めるためバーベキューを行いました. また, 1日目の夜には希望者による自由発表があり, 2名の生徒が自分の数学に関する研究成果について発表してくれました.

ゼミではいくつかのグループに分かれて, それぞれ下記のうち1冊の本を読みすすめました. 最終日にはセミナー参加者全体に, グループごとに学んだことを発表しました.

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講 師

講義の紹介

落合啓之先生 (九州大学)「5次方程式の解法」( 8 月 22 日)

概要

2011年はガロア生誕200年であり, それを記念した催しも行われている. さて, 2次, 3次, 4次の方程式は四則演算とベキ乗根を取る演算の有限回の組み合わせで解くことができるが, 5次方程式は一般にはそれらの方法では解くことができない. では, それ以外の手段を使ったら5次方程式を解くことができるだろうか?

この問いに対する答えはいくつかあるが, この講演では, ベキ級数を使った解法を紹介する. まず, 2次方程式を扱うことで考え方を説明し, 同じ方法を適用することで, 5次方程式の場合は「一般超幾何関数」という特殊関数が登場することを紹介する.

阿賀岡芳夫先生 (広島大学)「タイリングと三角形の幾何学」( 8 月 23 日)

概要

二つの話題についてお話ししたいと考えています.
  1. 私達は日常生活の様々なところでタイリング (タイル張り) を目にします. これらは模様として美しいだけでなく, 数学的にみても実は奥深い内容を含んだ研究対象でもあります. ここでは特に1種類のタイルだけで構成されるタイリングに注目し, 多くの例を紹介し, 更にいくつかの未解決問題についてお話しします. 誰にでも理解できるお話しです. 多くの図を楽しんで下さい.
  2. 初等幾何学には面白く, 美しく, そして驚くような定理が数多くあります. その中で最も単純な幾何学的図形であるはずの三角形について, ちょっと込み入ったお話しをします. 三角形が一つあれば, 重心・外心・内心・垂心…と自然に多くの点が定まりますが, このような点は実は無限に存在し, その集合にはどうやらある性質が秘められているようなのです. 図形を楽しみながら, その秘密に迫ってみたいと思います.

伊吹山知義先生 (大阪大学)「みんなの知らない数と整数論」( 8 月 24 日)

概要

1時間弱ずつにわけて, 2回休憩をはさんで講演する. 各時間のとりあえずの講演予定は下記のとおりであるが, 進行の具合によっては, 内容が変わるかもしれない.

  1. みんなの知っている数. 数の体系について軽く触れた後に, 3次方程式の根の公式 (カルダノの公式) を解説する. これを実際に「簡約不能な場合」に適用することによって, 複素数が歴史に登場した一つの理由を解説する. その後, 一般の根の公式の不可能性, 代数体, 代数学の基本定理などの概要を解説する.
  2. みんなの知らない数. まず, 複素数を含む, みんなの知らない数について解説する. 4元数体と8元数体である. また複素数にゆく前に枝分かれして存在している数, p進数について解説する. 整数の概念と素因数分解の概念について触れる中で, イデアル論や類数が, これらすべてにどう関係するかの解説を行う. 有理数体上の4元数体の分類, 4元数体での整数概念と極大整数環, 2次形式についての大域と局所, 大域が局所から説明できるという種々のハッセの原理, ハッセの原理が成り立たない時には, どう考えるべきか, などの話をする.
  3. 上半平面の非ユークリッド幾何学と保型形式. 上半平面上の非ユークリッド幾何学の考え方, 直線と長さと面積 (測地線とリーマン計量と不変測度) などについて軽く解説したのちに, 基本領域の体積の求め方を2通り解説する. ひとつは, 直接, 実数上の積分で求める方法であり, もうひとつは玉河数とアデールを用いる, 局所的な計算から求める方法である. これらを実際に計算して見せることで, 大域と局所がここにもあることを見る. これに関連してゼータ関数の話をする. また, 保型形式のゼータ関数, 2次形式で決まるテータ関数, ジーゲル公式, 保型形式の次元公式, などの研究の話を時間の許す範囲で話す.
最終更新日:2011年10月20日
JMO 夏季セミナー運営委員会
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