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セミナーで扱う本の紹介(2007年度)

目次

和書

トポロジー - 田村一郎

複素解析 - 藤本坦孝

グラフ理論への入門 - ボンディ, マーティー

多項式のラプソディー - 西山享

ヤング図形のはなし - 寺田至

洋書 (〜洋書を読むにあたって〜)

Integer Partitions - Andrews, Eriksson

An Introduction to the Theory of Numbers - Hardy, Wright

Introduction to Commutative Algebra - Atiyah, MacDonald

Undergraduate Algebraic Geometry - Reid

トポロジー - 田村一郎

トポロジーは「ゴム膜の幾何学」として, しばしば一般書などでも紹介されますが, その具体的な内容まで学ぶ機会はあまりないのではないでしょうか. トポロジーは幾何学の一分野ですが, 図形を「同じもの」とみなす基準において, 中高で学ぶユークリッド幾何学と大きな違いがあります.

ユークリッド幾何学では, 合同変換でうつりあう図形を同じものとみなします. 一方トポロジーの基準はずっと緩やかで, 連続的な変形でうつりあう図形を同じものとみなすのです. そのため, 一見異なるように見える図形が実は同じものであった, ということがしばしばおこります. そこで, 異なる図形をどうすれば区別できるのか?というのがトポロジーにおける基本的な問題となります.

この問題に対する有効なアプローチとして, 図形に対して連続的な変形で変わらない量 (位相不変量) を定義する, というものがあります. このような量がうまく定義できれば, それを比較することで異なる図形を区別することができます.

本書の前半では, 最も基本的な位相不変量の1つである「ホモロジー群」の理論を学ぶことを目標としています. 今回のセミナー中に前半が読みきれるかどうかは定かではありませんが, とくにはじめの方では位相や群など, 現代数学を学ぶ上で必須の概念が丁寧に解説されているので, 読みきれなくても多くのことが学べるでしょう.

本書は高校生を対象に書かれているので, 高校範囲で扱われない知識は, 全てきわめて丁寧に解説されています. 高校範囲の数学でも, 本書を読むために身につけているべきことはそれほど多くありません. 具体的には,

ことが必要ですが, それ以外はセミナー中に補う程度で十分だと思います. (文責:入江)

複素解析 - 藤本坦孝

高校数学ででてくる関数はほとんど, 実数に対して定義された実数値関数 (以下実関数) ですが, 複素解析という名のとおり, ここでは複素数に対して定義された複素数値関数 (以下複素関数) を考えます.

一見, 実部と虚部に分けて考えれば二変数実関数とおなじではないかと思うかもしれませんが, そうではありません. 実関数の微分の定義を自然に拡張して複素関数の微分というものを考えることができ, この複素微分可能という条件は, 実は二変数実関数がそれぞれの変数について微分可能であるよりもかなり強い条件になります. このような関数のことを正則関数と呼び, 複素解析では主にこの正則関数を扱います. この強い条件の下で, さまざまな綺麗な関係がなりたちます. たとえば正則関数をある領域の周りで積分すると0になるというコーシーの積分定理はその代表的な例であり, 今回はこれを目標にしようと思っています.

また, 今回はおそらく到達することはできないと思いますが, 指数関数などの実関数を複素関数に拡張するとき, どのように拡張するのが自然だろうか, ということについても一つの答えを与えます. 驚くべきことに, 指数関数を複素微分可能なように拡張する方法は一つしかないことが証明できます. 興味のある人は是非セミナー後に読み進めてほしいと思います.

予備知識としては, 実数についての極限, 微分等については説明があまりないので, 適宜発表者が補っていきながら読んでいくことになるでしょう. それを含め一章の準備の部分が若干多いので, 高校範囲の極限・微分・積分の概念は知っていることが望ましいです. 位相などについての知識はなくても結果を認めて読んでいけるでしょう. また, 微分などについても本文中でも複素数についてより厳密な形で定義・説明されているので, 知らなくても熱意と努力があればついていくことは可能だと思います. (文責:三谷)

グラフ理論への入門 - ボンディ, マーティー

グラフ理論はその名の通り「グラフ」というものを扱う分野で, 「グラフ」とは頂点とそれらの間を結ぶ辺からなるもののことです. 「グラフ」は頂点と辺だけからなるという単純な対象ですが, 頂点や辺を取り除いたり, 頂点や辺に色を塗ったりすることでさまざまな面白い結果が得られます. また, グラフ理論は現実への応用も広い分野で, コンピュータのデータシステムやアルゴリズムへの応用もされています.

本書では, 「マッチング」, 「木」, 「オイラー回路 (一筆書きができるグラフ) 」などといったグラフ理論において重要となるいくつかの概念を導入しながら, それらに関するいくつかの興味深い定理を示していくことになります.

例として, 結婚定理と呼ばれる定理があります. これはグラフ理論の言葉では,

「k-正則二部グラフは完全マッチングを持つ」

という形で記述されます. この定理において, 頂点を人, 辺を知り合いの関係を表すものとみなせば,

「村がある. この村に住む男性はそれぞれちょうどk人の村に住む女性と知り合いであり, この村に住む女性はそれぞれちょうどk人の村に住む男性と知り合いである. このとき, 女性がそれぞれ自らの知り合いである男性の中から結婚相手をうまく選べば, 各女性の選んだ結婚相手が重ならないようにできる. 」

と表されます. このように, 身近な問題のように見えるものもグラフ理論の形で表すことができます. これもグラフ理論の面白い点かと思います.

予備知識ですが, 特に必要ありません. また, 論理的な数学の証明を読むのに慣れるという意味でも非常に適した本だと思います. (文責:伊藤)

多項式のラプソディー - 西山享

本書は, 高校生などを対象に, 「学校の数学, 受験の数学と違った数学を感じてもらう」という目的で作られた「はじめよう数学」というシリーズの内の一冊です. (内容的には他の本とはつながりがあるわけではありません)

シリーズの名前の通り, いわゆる数学書という感じではなく, 著者が読者に語りかける形式で書かれています. そのため, 数学書を読みなれている人にはかえって読みづらいかも知れませんが, いままで本格的な数学書を読んだことがない人にとっては, 読みやすいのではないかと思います.

内容は, 序曲・主題・変奏の3つの部分に分かれています. 「序曲」では, 複素数・二項係数 (_nC_kのようなもの) ・対称式 (変数を入れ替えても変わらない多項式. 2変数の場合ではx^2+y^2, x^4-x^3y-xy^3+y^4など) といったさまざまな話題が多項式と関連付けられて書かれています. 具体的には, 二項係数に関するいくつかの等式や, 対称式が基本対称式 (2変数の場合ならx+y,xy) の多項式で書けることを証明したり, 対称式を利用することで3次方程式を解いていたりします. 「主題」では, 主に調和多項式というものの性質を調べています. n変数多項式に対し, 変数を入れ替える (対称群を作用させる) ことを考えると, まったく変わらないのが対称式であるのに対し, 調和多項式はこの作用の本質を反映しているようなものです. 調和多項式と対称式を調べることで, この作用をよく理解することができます. 「変奏」では, GL_2(\mathbb{C}) (複素数を成分とした 2\times2 行列で逆行列をもつもの全体) が多項式にどのように作用するかを見ます. これは「主題」と対応する話題でもあり, ここでも不変式 (上の場合での対称式にあたるようなもの) , 調和多項式などの概念が現れます.

この本には, 多項式という身近な話題から数学のいろいろな部分を覗いてみて, 興味をもったらそこを自分で掘り進めていってほしいという著者の考えから, 「この分野に興味をもった人はこれを読むと良い」という参考文献が多く載っています. そのため, セミナーが終わった後にもこの本に関連した自習がしやすく, 意欲のある人にはおすすめです.

セミナー当日は, 最初から順に読んでいって「主題」の終わりまでは進めたいと思っています. もしくは集まった人が希望するようなら, 「序曲」のいくつかの話題をとばして, 「変奏」にも入るかもしれません.

また, この本の中では (高校範囲の) 微分や行列, 複素数などを使うことがありますが, ほとんど形式的なものとしてしか扱わないので, これらのことを知らなくても適宜補足をしていけば問題ないと思います. よって, 予備知識としては多項式の扱いに慣れていること (中学生レベル) で十分です. (文責:栗林)

ヤング図形のはなし - 寺田至

同じ大きさの正方形の箱をいくつか用意して, それを十分に広い長方形の入れ物の左上の隅から始めて詰めていきます. このとき箱の左や上には隙間ができないように気をつけます. こうしてできるのがヤング図形です (箱が5個や6個のときに, それぞれ何通りのヤング図形ができるかを考えてみましょう) . どちらかというと, ヤング「図形」とはいっても幾何というよりは組合せ論的な対象だといえるでしょう. さらに今並べた箱の各々に自然数を書き入れたもの (ヤング盤) を考えることで, ヤング図形の世界は奥深い広がりを見せていきます.

ヤング図形には単に組合せ論的な面白さがあるだけでなく, 表現論という近代・現代数学のトピックと密接な関係があります. この本では, ヤング図形に関する数え上げの等式から出発し, まずその式が成り立つ理由を直接考察した後, 実はそれが対称群の既約表現の次数に関する等式とも思えること, そしてヤング図形を使った対称群の既約表現の同型類の分類へと話が進んでいきます. ここで現れた言葉を聞いたことがなくても全く問題ありません. むしろ, ヤング図形を通してこうした数学の世界に招待してくれるのがこの本です.

そんなわけで, この本を読むのに特別な予備知識は必要ありません. 複素数や集合の用語が登場してきますが, これらに不慣れでも必要に応じて補足していけば心配ありません. ただ, 著者独特の語り口で読者に語りかけるように書かれているので, 初めて数学書に挑戦する人にも読み進めやすい一方で, 重厚な数学書の雰囲気に触れたい人にはやや不向きでしょう. 皆さんが色々と頭を動かして新しい概念に立ち向かう積極性を発揮してくれることを期待しています. (文責:近藤)

〜洋書を読むにあたって〜

以下に紹介する四冊は洋書(英語の本)です.

洋書の数学書というと, 専門用語ばかりで全く分からないのではないかという印象を持つかもしれませんが, 決してそんなことはありません. 基本的に全ての専門用語は必ず定義が述べられるので, 知らない専門用語が突然現れることは (予備知識として仮定されている場合を除いて) ありません. また, 文法構造も単純なものばかりですので, 基本的には中学生程度の英語力で問題ありません. 難しいというよりも数学に独特の語法が多いですが, それもさほど多くのパターンがあるわけではないので, はじめは馴染めなくてもすぐに慣れてくるはずです. 洋書の専門書に触れる数少ない機会でもあると思うので, 恐れず積極的にチャレンジしてみるといいでしょう.

※洋書の選択を考えている人は(通常の)英和辞典を持参することをお勧めします. 数学英和辞典を持っているという方は, あわせてそちらも持参するとよいでしょう. 数学英和辞典を持っていない方は, こちらで何冊か用意して貸し出しますので買う必要はありません.

Integer Partitions - Andrews, Eriksson

この本は, 整数の分割というものを中心に扱っています. さてしかし, 整数の分割とは何なのでしょう.

たとえば, 4をいくつかの正の整数の和で表す方法を考えてみましょう. 4, 3+1, 2+2, 2+1+1, 1+1+1+1の5通りの方法がありますね. これらが4の分割です.

このようなものを考えると, いろいろな面白い性質を持っていることがわかります. たとえば簡単なものとして, Euler's identity「nの奇数のみによる分割と, 相異なる数のみによる分割の個数は等しい」などがあげられます. また, 母関数の手法と分割に関する考察を組み合わせることで, さまざまな関数間の等式を得ることが出来ます. 母関数という単語が唐突に出てきましたがちゃんと本が解説してくれているので大丈夫です.

この本は, Ferrer図形や母関数などの手法を用いて, 先にあげたEuler's identityや Gauss多項式, Rogers-Ramanujan identityなど整数の分割に関する入り口的な部分を学ぶことが出来ます.

本書を読むにあたっては, 特に予備知識は必要ありません. 中学生の方でも大丈夫でしょう. ごくたまに中学範囲外な記号とかが出てきますが, そんなに沢山出てこないので, 適宜補足していけるでしょう. パズルのような感じで進んでいく本なので, 読みやすいのではないかと思います. (文責:渡部)

An Introduction to the Theory of Numbers - Hardy, Wright

この本では整数論に関するいくつかの興味深いテーマが章ごとにほぼ独立に紹介されています. 内容も大きく分けて代数的なもの, 加法的なもの, 解析的なものなど様々です. さらには, 正多角形の作図, ミンコフスキーの定理(下記) など幾何への応用や, ニムのゲームなど組み合わせ的な話も紹介されています.

一部, 前の章で定義した内容を用いていたりしますが, 各章で用いる主要な事柄はその章の最初で丁寧に定義されており, 読みやすいと思います. セミナーではいくつかの章を選んで重点的に読んでいきます. どこを読むかはゼミ員の希望を聞いて決めようと思います.

数学的な議論の展開や説明が丁寧であるため, 数学の洋書を読む訓練をするという点でも非常に適した本だと思います.

たとえば, この本では以下のような定理が紹介されています.

ミンコフスキーの定理「座標平面上で, 原点について点対称である面積4の凸図形は格子点(x,y座標が共に整数である点)を含む」
フェルマーの最終定理「nを3以上の整数とするとき, x^n+y^n=z^n をみたす正整数x, y, zは存在しない」

整数論にはこれらの定理のように, 定理の意味を理解するのは比較的簡単(凸図形ってなに?と思った方へ... 凸図形の定義もこの本に書かれているのでご安心ください!)ですが, 背後には非常に奥の深い理論が潜んでいるといったものが多く, 面白い分野といえます. ちなみに, ここで挙げたフェルマーの最終定理は300年以上も解決されなかった超難問で, この本ではn=3, 4の場合のみ証明が紹介されています.

整数論は高校数学ではあまり扱われず, なじみのない分野かもしれませんが, 暗号など実社会への応用もあり, 再び注目を集めています.

必要とする予備知識は高校数学の基本的な記号(Σやlogなど)の定義を知っているくらいで十分であり, 他には特に必要ありません. (文責:清水)

Introduction to Commutative Algebra - Atiyah, MacDonald

いくつかの演算を備えた集合は代数系と呼ばれます. 代数系には, その演算の種類や性質に応じて様々なものがありますが,

のように加法と可換な乗法を備えた体系は可換環と呼ばれます (乗法が可換というのは, 交換法則 xy=yx が成り立つという意味です) .

代数系の性質を調べる代数学は勿論それ自身が豊かな広がりを持つ数学一大分野ですが, 他分野においても道具として強力な威力を発揮します. 可換環に対する理解が, 整数を主な興味の対象とする整数論に寄与するのは至極当然ですし, 幾何学・解析学などにおいても, 考察の対象に付随する代数系を考えることはいまや最も基本的な手法の1つです. 特に可換環に関する理論は, 代数的整数論や代数幾何学という大分野に密接に関わり, 互いの発展を促してきました.

本書では, この可換環論の基礎を丁寧に扱っています. どちらかといえば他分野との関わりよりも可換環そのものを興味の対象としているため, 証明される事柄は一見無味乾燥なものばかりに見えるかもしれません. しかし, そこにはわずかな条件 (加法と可換な乗法を持つ) だけから出発しているとは思えないような理論の広がりがあります. はじめは味気なくつまらない対象に思えるかもしれませんが, 読み進めていくにつれて, 次第に味わい深いものに思えるようになることと思います. セミナーを通して可換環の魅力を感じ取って頂ければ幸いです.

本書はもともと大学3年生に向けた授業をもとに書かれたものですが, 予備知識はほとんど必要ありません (負の数や多項式に慣れていれば十分です) . 読み進めるのに必要とされるのは, 丁寧に1行1行論理を追っていく根気だけです. 数学の中でも代数学は特に複雑な議論が少ないため, 丁寧に数学書を読む練習としてもうってつけだと思います. (文責:西本)

Undergraduate Algebraic Geometry - Reid

幾何学は図形を扱う数学ですが, どのような図形を対象とするかによってさまざまな分野があり, 代数幾何学 (Algebraic Geometry) の研究対象は「代数多様体」とよばれる図形です. 大まかにいえば, これは座標空間内で, いくつかの代数方程式 (多項式 = 0 の形の方程式) から定義される図形をさします.

いくつか例を挙げましょう. たとえば, xy 平面内で,

あるいは xyz 空間において, x^2+y^2-z^2=1 なる点全体のなす図形は双曲面とよばれます.

このような図形の性質を, 代数的な手法を用いて調べるのが代数幾何学の主題です.

上のように明示的に与えられた方程式に対し, 具体的な計算を行って調べるのはむろん重要な手法ですが, そのようなアプローチでは方程式の数や次数が上がるにつれて進展は望みにくくなり, 代数多様体に対する一般的な理論が必要になります.

この本では代数幾何学の入門的な理論が扱われますが, 抽象論にとどまらず, 豊富な具体例とともに説明されています.

第 1, 2 節では導入として,平面上の 2 次曲線と 3 次曲線という比較的調べやすい図形が扱われます. 2 つの 2 次曲線の交点の個数の決定や,3 次曲線上の演算といった話題が論じられます.これらはそれ自身興味深い対象である一方で,一般論を展開する上での有用な道標にもなります.

第 3, 4 節から一般論に入ります.可換環論からの準備ののち,(アフィン)代数多様体,その上の座標環・関数体,有理写像といった代数幾何学における基本的概念が説明されます.このような一般論を適用することにより,たとえば,第 2 節では不完全だった,3 次曲線上の演算が結合法則をみたすことの証明を正当化することができます.

第 5, 6, 7 節では射影多様体, 非特異性などの概念が紹介され, また応用例として 3 次曲面上の直線の配置に関する理論が展開されます (セミナー期間中にこの辺りまで読み進められるかはわかりません) .

予備知識に関して. 以下に述べる概念は説明なく用いられるので, 定義およびごく基本的な性質を知っているのが望ましいですが, 熱意のある生徒ならば, 知らない部分はチューターに教わるなどしてカバーすることも可能でしょう.

(文責:松本)